大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(ワ)1313号 判決

事実

原告(国民相互金融株式会社)は、被告会社(共同水産株式会社)が興亜工業株式会社にあてて振り出し、被告(共同水産株式会社代表取締役)が手形保証をして交付した約束手形につき、受取人である興亜工業株式会社が右手形に白地裏書をした上これを譲渡する代理権を与えられた岩井藤太郎より譲渡を受けて本件手形を取得したのであるが、その支払場所にこれを呈示しても支払を受けられなかつたので、右手形金十五万円とこれにつき支払日より支払済まで商法所定の年六分の率による利息金の支払を求めると主張する。

これに対し被告は、興亜工業株式会社代表者中村和三郎としては本件手形を他で割引いて金融を計ることを被告会社から頼まれてその振出を受けたものであつて、割引先を探すため特に会社代表者でない事務員中村純蔵名義で白地裏書の上岩井に預けたに過ぎず、岩井に右手形を譲渡する代理権など与えたわけではないから、かかる裏書でかかる者から手形を取得した原告は、その正当な権利者ではないわけで原告の本訴請求は失当であると抗弁する。

理由

岩井藤太郎が興亜工業株式会社を代理して原告主張の手形を譲渡する権限が与えられていたことを証するに足りる証拠はなく、右会社代表者中村和三郎はただ右手形の割引者を探し、割引条件をたずねる手続を岩井に頼みその回答如何により改めて正式に裏書譲渡の方法をとるべく、そのためわざと代表者でない中村純蔵名義で裏書して岩井に預けたのであつて、これらの事実からも本件手形の譲渡代理権を岩井に与えたとは認められないから、原告はその主張するところに従つて本件手形の権利を取得したことにはならないといわなければならず、従つて原告の本訴請求は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例